DBS体験談

一人で歩いて帰宅できるようになりました。

  • S.Sさん/57歳/男性/大阪府
  • 発症時年齢 50歳
  • DBS手術時年齢 56歳

発症から治療開始までは不安で仕方ありませんでした

発症したのは50歳の時でした。右足を引きずって歩くようになり、手の震えが出始めました。知らないうちに脳梗塞などを起こしたかもしれないと心配になり、病院を受診しました。そして、紹介された脳神経外科でパーキンソン病と診断されました。病名が分からなかったときや病名が分かってからも治療を始めるまでは不安で仕方ありませんでした。

最初は、薬剤治療で、体の動きはよくなり、仕事への意欲が増しました。しかし、しだいに睡眠障害や幻視など、薬の副作用に悩まされるようになりました。薬剤の量、種類も増えていき、健康保険の範囲内とは言え経済的な負担も大きくなっていました。薬に耐性ができることで効果が薄れるウェアリング・オフの症状が強くなり生活ができなくなってきていました。

手術は、旅行先や出張先で足が動かなくなり、非常に苦労した経験がきっかけで検討をはじめました

そのころに主治医の先生から、外科的治療(DBS)の話を伺ったときのことは今でも覚えています。外科的な治療方法の存在は知っていましたが、まだまだ先と考えていました。しかし、旅行先や出張先で足が動かなくなり、非常に苦労した経験がきっかけで手術を検討し始めました。また同じことが起こるようなら出張や旅行ができなくなってしまうと思いました。

DBSについては、主治医の先生からの説明により、詳しく知ることができました。脳内を電極で常時刺激するということは、怖さもありましたが、安全性や可逆性についても理解できました。詳しい機構は分かっていないというのも気になりましたが、主治医から本格的に薦められたこともあり、難病指定申請を行い、DBS手術を受ける決断をしました。

入院の前に、DBS手術を受けた患者さんと話をする機会を頂きました。私と同様に、研究職をされており、共通点もあり参考になりました。特にDBSの刺激装置を選ぶ時に、この経験談が決め手になりました。顔の表情が良くなったと家族に言われたと聞いて、私も少し期待感が膨らみました。

手術の翌日から体が動くようになり、足のすくみなどがよくなりました

まず、8月に検査入院をしました。生まれて始めての長期入院でした。ちょうどオリンピックの時期で、TV観戦をして退屈をしのぐことができました。そして、9月に再入院をして手術を受けることになりました。自分が、正真正銘のパーキンソン病であることを実感し、少し寂しい気持ちになりました。手術前に、薬の量を減らす必要があり、とても辛かったです。これまでできたことができなくなりました。特に、トイレや食事にも手助けが必要になり困りました。

まず、脳に電極を入れる手術を行い、1週間後に胸に刺激装置を入れる手術を受けました。全身麻酔から覚めた後、電源のスイッチを入れた時に、腕が少し痺れたのを覚えています。その後、強さを調整してもらい、翌日から体が動くようになりました。手術後、姿勢反射障害が特に改善されました。足のすくみや体の反応など、術前に苦労していたところがかなり良くなりました。その後退院するまでは、明るい時期を過ごせました。食欲も高まり、病院食のほかに売店で間食を買って食べることもありました。

“一人で歩いて帰宅できるようになりました”

毎日の生活はあまり大きく変わってはいませんが、ウェアリングオフがなくなったので、以前は付き添いがいないと帰宅することはできなかったのですが、一人で歩いて帰宅できるようになりました。体を動かすのに役立っています。薬物治療の時もそうですが、発症前の自分の状態に戻ったわけではない、ということは肝に命じています。使わないことが多いですが、DBSのプログラマはどこに行くにも持参しています。

パーキンソン病を発症する前は、多いときは毎月のように海外出張があり、当時住んでいた岩手県から東京に毎週2往復する忙しい生活でした。私の場合、病気にかかり、そして3・11の震災後に、生活のパターンが変わり、家族と過ごす時間が増えたように思います。同年代の友人に、常時の介護が必要となり、私より苦労されている方々がいます。そういった難病等と比較すると、薬剤があり、DBSがあるパーキンソン病患者であることを、なるべくポジティブに考えるようにしています。


ウルグアイで開催された国際会議で旧知の研究者夫妻と

最後にメッセージ

病気は人によって異なり、十人十色です。効果がある治療も、人によっては有効でないこともあります。その中でも、DBSは実績に裏打ちされた有効性の高い治療法であると理解しています。また基本的に非破壊治療であり、将来期待される遺伝子治療などと相容れないものではありません。迷うよりも一歩進むことが重要ではないかと思います。

 

(2017年11月)

主治医のコメント

DBS治療を勧めた理由と治療の効果

初診以来、7年間パーキンソン病の治療をしています。

50才頃に右手で財布から物を取り出しにくい、キーボードを打ちにくいなどの症状で受診されました。右側に強い筋固縮、動作緩慢が主体で静止時振戦はほとんどありませんでした。治療を開始する際の目標は、症状の日内変動を起こさない治療を行うこと、仕事を続けられるように治療をすることでした。

日内変動をおこさないよう、仕事に支障がないようにと、日頃の様子をうかがいながら治療を続けてまいりました。が、非常に多忙であり、仕事を継続するための症状改善を得るには、複数の抗パーキンソン病薬と少なくないL-dopa製剤を必要としました。多くの海外出張をこなされ、休むことなく仕事をつづけておられましたが、疲れて帰宅されると動作障害が強く、一人で着替えをする事が出来ないようでした。

治療が長くなるに伴って、運動症状の変動のみでなく、非運動症状が強くなりました。特に不眠が強く、2-3種類の睡眠薬を併用しても数時間毎に覚醒してしまい、十分な睡眠がとれません。薬効がオフになると頭部を輪っかで締め付けるような頭痛が出現し、かなりつらい様子でした。また体幹を前屈するような不随意運動や体幹前屈の姿勢異常が強くなってきました。処方している抗パーキンソン病薬は7-8種類になり、もうこれ以上の抗パーキンソン病薬の増量はできない、したくない、増量しても良くならないと判断し、DBS治療を提案しました。治療開始後6年でした。

日内変動、非運動症状の軽減を目的に両側視床下核DBSを行いました。

術後、刺激と薬剤の調整を行い、抗パーキンソン病薬は2種類のみになりました。睡眠薬を服用せずに眠ることが出来るようになり、頭痛の訴えはなくなりました。元気で活躍しておられます。

今年の夏はご家族でアンコールワットへ旅行をしたと伺いました。今後も長く活躍され、穏やかに生活できるような治療を続けて行きたいと思います。

監修:横地 房子 先生( 東京都立神経病院 脳神経内科)

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